前回までに、8割以上の日本人のビジネスウェアが間違った着こなしであること、
そしてそんなことがどうして起こったのか、
歴史の背景を振り返って書いてみました。
スーツは一朝一夕にできたものでないことは、
ここまで読んでいただいた方はお分かりかと思います。
では、ここからはもう少し
スーツの歴史を紐解いていきましょう。
スーツの原型は最初からビジネスウェアではなく
ごく普段着からはじまったものでした。
現在のように化学繊維がない時代に
コート(ジャケット)とトラウザーズ(パンツ)として、
寒い英国の気候に相応しい
防寒と丈夫さをあわせ持つ洋服として発生したのです。
その用途は乗馬、狩猟から普段着まで多岐にわたっていました。
デザインは現在のジャケットやパンツとよく似ていましたが、
その使用用途に応じて、
生地やディティールの仕様はそれぞれ異なっていました。
たとえば、最近、流行しているツイードの王様「ハリス・ツイード」の歴史をさかのぼると、
なんと漁師の服として出来た物であることがわかります。
今でこそレインコートなどのビニールやナイロンなどの撥水の生地が開発されていますが、
その当時はまだそのような生地は無く「ブラックフェイス」と呼ばれる、
毛足が長く極めて太くて硬い毛を持つ羊の毛を、
脱脂せずに職人の手によって織ることによって
撥水の効果を持たしたのがハリスツイード生地です。
この生地を使用して創られたジャケットが、
英国の北西に位置する「ハリス&ルイス島」の漁師達が
極寒の海に漁に出る時に着るコートだったのです。
日本に輸入されている「ハリス・ツイード」でもかなり分厚く感じますが、
ほとんどがフェザーウェイトと呼ばれ、
ハリスの中では薄いものに分類されます。
実際には、1.5倍ほどの厚さがあり、
仕立ててすぐには着用するのが困難な程、
相当な硬さを持つものです。
実際にその当時の漁師たちは、
出来上がったコートをしばらくの間軒先につるし、
風雨に晒し、適度な柔らかさになるまで放置したそうです。
また、このジャケットは漁師が親子三代に渡って着用すると言われるほど
頑丈な防寒具だったそうです。
このように見ると当初は防寒具の様相が強く、
熱が抜けにくい構造になっているため
動きやすく寒さをさえぎるためのものだったことがわかります。
実際に現在のスーツの夏生地で作ったものでも
夏の着用には適していないことがわかりますね。